周りがみんな恋愛の話をしているとき、私はいつも静かに聞いている。
「あの人素敵だよね」「今度告白しようかな」「失恋して辛い」
そんな話を聞きながら、心のどこかで思う。みんなが当たり前に感じている、その「恋愛感情」というものが、私にはよくわからない。
感じられない感情への困惑
映画やドラマで描かれる恋愛に、共感できない自分がいる。
胸がときめく、という感覚がわからない。誰かを特別に想って眠れなくなる、ということも経験したことがない。好きな人のために何かを犠牲にしたい、という気持ちも理解できない。
友達として好きな人はたくさんいる。尊敬する人も、一緒にいて楽しい人も。でも、それ以上の感情を抱くことができない。
最初は「まだ出会っていないだけ」だと思っていた。いつかきっと、運命の人に出会えば変わるはず。そう信じて待ち続けた。
でも年月が経っても、その感情は芽生えない。
「普通」への憧れと違和感
私が大学でコミュニケーション学を学んでいたとき、恋愛関係についての研究にも触れた。
理論的には理解できる。人がなぜ恋愛感情を抱くのか、どのようなメカニズムでパートナーシップが形成されるのか。でも、知識として理解することと、実際に感じることは全く別だった。
周りの友達が恋愛に夢中になっている様子を見て、「私も普通になりたい」と思ったこともある。恋愛感情を持てる自分になりたい、と。
でも無理に感じようとすればするほど、自分の中の空虚感が大きくなるだけだった。
欠けているのではなく、違うだけ
長い間、自分には何かが欠けていると思っていた。
恋愛感情という、人として当たり前に持っているべき感情が、私には備わっていない。まるで重要な部品が一つ足りない機械のように感じていた。
でも最近、考え方が変わった。
欠けているのではなく、違うだけなのかもしれない。人によって得意な分野が違うように、感情の在り方も人それぞれ。恋愛感情を持たないことは、欠陥ではなく個性の一つなのかもしれない。
アロマンティックという言葉
「アロマンティック」という言葉を知ったとき、少し救われた気がした。
恋愛感情を抱かない、または抱きにくい人たちのことを表す言葉。これは病気でも異常でもなく、性的指向の一つとして認識されている。
私がそうなのかどうかは、まだはっきりとはわからない。ラベルを貼ることが重要なのではなく、「そういう人もいる」ということを知れたことが大切だった。
自分だけが特殊なのではない。同じような感じ方をしている人が、他にもいる。
恋愛以外の愛情
恋愛感情は持てないけれど、他の形の愛情は持っている。
家族への愛情。友達への愛情。動物への愛情。自然への愛情。本や音楽への愛情。
これらの感情は確かに存在するし、とても大切にしている。恋愛感情だけが愛情の全てではない。
むしろ、恋愛に捉われない分、他の関係性を深く大切にできているのかもしれない。友達との時間を心から楽しめるし、家族との絆も深い。
孤独感との向き合い方
それでも時々、深い孤独感に襲われることがある。
特に周りの友達が次々と恋人を作り、結婚していく時期には、一人取り残されたような気持ちになる。
でも、パートナーがいることだけが孤独の解決策ではない。充実した友人関係、家族との絆、趣味への情熱、仕事への取り組み。これらすべてが、人生を豊かにしてくれる。
一人の時間を楽しめることも、一つの才能だと思う。
将来への不安
「このまま一人で生きていくのだろうか」という不安は、時々頭をよぎる。
老後はどうしよう。病気になったらどうしよう。経済的に大丈夫だろうか。
でも、恋愛感情を持てる人だって、必ずパートナーが見つかるとは限らない。結婚しても離婚することもある。人生に確実なものなんて、実はそれほど多くない。
それよりも、今の自分にできることを着実に積み重ねていく方が建設的。
自分らしい幸せの形
幸せの形は人それぞれ。
恋愛結婚して子どもを育てることが幸せな人もいれば、一人で自分の好きなことに没頭することが幸せな人もいる。友達との関係を何より大切にする人もいれば、仕事に生きがいを見出す人もいる。
どれも等しく価値のある生き方。
私は私らしい幸せを見つけていけばいい。恋愛という形ではなくても、人とのつながりや愛情を感じる方法はきっとある。
受容への道のり
恋愛感情を持てない自分を受け入れることは、一朝一夕にはできなかった。
最初は否定し、次に変えようと努力し、それでも変わらない現実に絶望し、そして最終的に受け入れるまで。長い道のりだった。
でも今は思う。この特性も含めて、私なのだと。
無理に恋愛感情を持とうとするよりも、今の自分が自然に感じられる感情を大切にする方が、ずっと豊かな人生を送れる。
あなたはあなたのままで
もしあなたも同じような悩みを抱えているなら、知ってほしい。
あなたは壊れていない。欠けてもいない。ただ、少し違うだけ。
そして、その違いは恥じるべきものではなく、あなたらしさの一部。無理に変える必要はない。
今のあなたのままで、十分に価値がある。そのことを、どうか忘れないで。
恋愛感情を持てなくても、人生は十分に美しく、意味深いものになる。あなたらしい愛情の形を見つけて、あなたらしい幸せを築いていこう。