誰かを好きになりそうになると、心の奥でアラームが鳴る。
「また傷つくかもしれない」 「今度はもっと深く傷つくかもしれない」 「立ち直れないほどの痛みを味わうかもしれない」
そんな声が頭の中で響いて、結局その気持ちにフタをしてしまう。安全な距離を保って、傷つかない場所にいる方が楽だから。
でも本当は、誰かと深くつながりたい。愛し、愛されたい。そんな自分の気持ちも確かに存在している。
傷つくことへの記憶
過去に深く傷ついた経験があると、その痛みは心の奥深くに刻まれる。
好きだった人に振られたとき。 信じていた人に裏切られたとき。 大切にしていた関係が終わってしまったとき。
その時の痛みは、まるで心にずっと残る傷跡のよう。時間が経っても完全には消えない。
私も大学時代、深く信頼していた人に突然距離を置かれたことがある。理由もよく分からないまま、気づけば相手は別の人と親しくなっていた。その時の混乱と痛みは、今でもはっきりと覚えている。
それ以来、人と深く関わることが怖くなった。表面的な関係なら安全だけれど、心を開くのは危険だと学習してしまった。
想像の中で膨らむ恐怖
実際の痛みよりも、想像の中の恐怖の方が大きいことがある。
「もし振られたら」 「もし相手に真剣じゃないと言われたら」 「もし自分だけが本気になってしまったら」
そんな「もし」が頭の中で無限に膨らんで、実際に行動する前から心が疲れてしまう。
でも考えてみれば、その「もし」の多くは実際には起こらないこと。起こったとしても、想像していたほど致命的ではないこと。
私たちは自分の心を守ろうとするあまり、存在しない敵と戦っているのかもしれない。
完璧を求めすぎる心
傷つくのが怖い人は、しばしば完璧な関係を求めてしまう。
「絶対に裏切らない人」 「絶対に自分を傷つけない人」 「絶対に離れていかない人」
でも、そんな完璧な人も関係も存在しない。すべての人間関係には、傷つく可能性と喜びの可能性が共存している。
リスクのない愛なんて、愛ではない。傷つく可能性があるからこそ、愛は尊くて、美しくて、そして時に痛い。
小さな傷と大きな傷
すべての傷が致命的ではない。
小さな傷もあれば、時間が経てば癒える傷もある。そして何より、傷ついた経験は私たちを強くし、優しくし、深い人間にしてくれる。
傷つかなければ、人の痛みも分からない。拒絶されなければ、受け入れられることの喜びも分からない。失うことがなければ、持っていることの有り難さも分からない。
痛みは確かに辛い。でも、その痛みがあるからこそ感じられる幸せもある。
今の自分を信じる
過去に傷ついた自分と、今の自分は違う。
あの時は経験が少なくて、対処法も知らなかった。でも今のあなたは、その経験から多くのことを学んでいる。
傷ついたときの対処法も知っている。 信頼できる友人もいる。 一人でも大丈夫だという強さも身についている。
今のあなたなら、たとえ傷ついたとしても、きっと乗り越えられる。過去のあなたよりもずっと強く、賢く、優しくなっているから。
傷つく権利
実は、私たちには「傷つく権利」がある。
愛する権利、愛される権利、そして時には傷つく権利も。
傷つくことを避けて生きるのは、生きることを避けて生きるのと同じかもしれない。完全に安全な場所にいては、本当に大切なものに出会うことはできない。
恋愛で傷つくのは、恋愛をしている証拠。心を開いている証拠。生きている証拠。
小さな一歩から
いきなり心を全開にする必要はない。
まずは小さな一歩から。相手との会話を少し増やしてみる。メッセージの返事を少し早めてみる。相手の好きなものに興味を示してみる。
そうやって少しずつ距離を縮めながら、相手がどんな人なのか、自分の気持ちはどう変化するのかを確かめていけばいい。
急ぐ必要はない。あなたのペースで、あなたが安心できる速度で。
支えてくれる人がいる
もし傷ついてしまったとしても、あなたは一人じゃない。
家族、友人、時には見ず知らずの人でも、あなたのことを心配してくれる人がいる。その人たちの存在を思い出して。
そして何より、過去の傷を乗り越えてきた自分自身を信じて。あなたは思っているよりもずっと強い。
愛することの勇気
恋愛は確かにリスクがある。傷つく可能性もある。
でも、愛することは人生で最も美しい体験の一つでもある。誰かを大切に思い、相手からも大切にされる喜び。一緒に笑い、時には一緒に泣く時間。
その幸せを知らずに人生を終えるのは、あまりにももったいない。
あなたの優しくて繊細な心は、きっと誰かを幸せにする。そして、あなた自身も幸せになる権利がある。
傷つくことを恐れて立ち止まっているより、小さな勇気を出して一歩踏み出してみよう。
最初は怖いかもしれない。でも、その一歩の先に、きっと素晴らしい出会いと体験が待っている。
あなたの心の準備ができたとき、そっと扉を開けてみて。外の世界は、思っているよりも優しいかもしれない。