玄関のドアノブに手をかけて、深呼吸をする。
外に出るのが、こんなに怖いことだったなんて。
最初はほんの少し、家にいる時間が長くなっただけだった。テレワークが増えて、買い物はネットで済ませて、友達との予定もオンラインで。気がついたら、もう何週間も家から出ていない。
そして今、外の世界がまるで異国のように感じられる。
いつの間にか築かれた壁
家は安全で、予測可能で、コントロールできる空間。
ここでは誰かに評価されることもないし、失敗を恐れることもない。好きな時間に起きて、好きなものを食べて、好きなことをして過ごせる。
でも、その快適さと引き換えに、外の世界との間に見えない壁ができてしまった。
最初は薄い膜のようだったその壁が、日を追うごとに厚くなり、今では乗り越えるのがとても困難に感じられる。
私も学生時代、研究に没頭するあまり、気がついたら一週間以上図書館と家の往復しかしていないことがあった。外の世界の変化についていけなくなって、まるで浦島太郎のような気分だった。
外の世界への不安の正体
なぜ外が怖いのだろう。
人の目が怖い。久しぶりに外に出た自分が、みんなにどう見られるか分からない。 社会の変化が怖い。この間に世界はどう変わったのか、置いていかれた気がする。 自分の変化が怖い。外に出て、自分がうまく振る舞えるかどうか分からない。
でも一番怖いのは、「外の世界が思っていたより大丈夫だったらどうしよう」という気持ちかもしれない。そうなったら、今まで家にこもっていた時間は何だったのかと自分を責めてしまいそうで。
家にいることを責める必要はない
まず、家にいることを選んだ自分を責めないでほしい。
それは怠けていたわけでも、逃げていたわけでもない。きっと、その時のあなたにとって必要な時間だった。
家にいる間も、あなたは無駄に過ごしていたわけではない。本を読んだり、映画を見たり、考えを深めたり。内面を豊かにする時間だった。
そして何より、今こうして「外に出たい」と思えているのは、少しずつ回復している証拠。焦らなくてもいい。
小さな一歩から始めよう
外の世界に戻るのに、大きな決断は必要ない。
まずは玄関のドアを開けて、外の空気を吸ってみる。 次は郵便受けまで歩いてみる。 それができたら、家の周りを一周してみる。 コンビニまで行ってみる。
一歩ずつ、自分のペースで。無理をして遠くまで行く必要はない。
私も引きこもりがちになった時期は、最初は「今日は玄関まで」「今日は階段まで」そんな小さな目標から始めた。それでも、外の空気に触れるだけで、少し世界が広がった気がした。
外の世界は思っているより優しい
実際に外に出てみると、思っていたより世界は優しいことに気づく。
通りすがりの人は、あなたのことをじっくり見ているわけではない。みんな自分のことで忙しい。 店員さんは、いつも通り親切に接してくれる。あなたが久しぶりだなんて知らない。 街の景色は、少し変わっているかもしれないけれど、本質的には同じ。
そして何より、外の世界もあなたを待っている。春の花、夕日の美しさ、風の心地よさ。それらはすべて、あなたがいつ戻ってきても温かく迎えてくれる。
完璧を求めなくてもいい
外に出るとき、完璧である必要はない。
髪型が決まらなくても、メイクがうまくできなくても、服装がちぐはぐでも、それで構わない。
大切なのは、外に出るという行為そのもの。見た目や振る舞いの完璧さではない。
私も最初は「ちゃんとした格好をしなければ」と思って、準備に時間をかけすぎて結局外に出られない日があった。でも、そんな完璧さは誰も求めていないことに気づいた。
家は逃げ場所として残っている
外に出るからといって、家との関係を断つ必要はない。
家はいつでもあなたの安全基地。疲れたら戻ってくればいい。無理をして外にい続ける必要はない。
「今日は頑張って外に出た。明日は家でゆっくりしよう」
それでいい。行ったり来たりしながら、少しずつ外の世界との距離を縮めていけばいい。
あなたのペースを大切に
誰かと比較する必要はない。
毎日外に出る人もいれば、週に一度の人もいる。月に一度でも、それがあなたのペースなら、それでいい。
大切なのは、自分の気持ちに正直でいること。無理をしないこと。そして、小さな変化も自分で認めてあげること。
外の世界もあなたの一部
実は、外の世界も内なる世界も、どちらもあなたの人生の大切な一部。
家にいる時間があったからこそ、外の世界の価値に気づける。静けさがあったからこそ、賑やかさの楽しさが分かる。
今日外に出られなくても大丈夫。明日でもいい。来週でもいい。あなたが準備できたときが、最適なタイミング。
勇気は小さくても十分
ドアノブに手をかけるその瞬間の勇気で十分。
外に出るのは怖いけれど、その怖さも含めて、今のあなた。完璧でなくても、準備不足でも、そのままのあなたで外の世界に足を向けてみよう。
きっと思っていたより温かく迎えてくれる。そして家に帰ったとき、少しだけ世界が広がった自分に気づくはず。
一歩ずつ、あなたらしいペースで。外の世界は、いつでもあなたを待っている。