哲学書のコーナーで、同じ本に手を伸ばしたときに触れ合う指先。美術書の前で立ち止まって、何気ない会話から始まる関係。
そんなシーンを想像しながら、今日も専門書店の中をゆっくりと歩く。
「こんなこと考えているの、私だけかな」 「やっぱり現実的じゃないのかな」
心の中でそんな声がする。でも、どこかで期待している自分もいる。
映画みたいな出会いへの憧れ
専門書店での出会いに憧れるのは、決して珍しいことじゃない。
知的で落ち着いた空間で、同じような趣味や関心を持つ人と自然に出会えたら。お互いの価値観や教養レベルがある程度分かった状態で関係が始まったら。
そんな理想的な出会い方に魅力を感じるのは、とても自然なこと。
私も大学でコミュニケーション学を学んでいる時、よく専門書店に通っていた。学術書コーナーで同じような本を手に取る人を見かけると、「もしかしたら」なんて思ったりして。
でも実際には、みんな自分の目的に集中していて、なかなか自然な会話のきっかけは生まれなかった。
「甘い」かもしれないけれど
「現実的じゃない」「甘い考え」
そんな風に言われるかもしれない。確かに、統計的に見れば専門書店で運命の人と出会う確率は高くないかもしれない。
でも、その「甘さ」の中には、とても大切なものが込められている。
知的な刺激を共有できる相手への憧れ。 価値観の合う人とのつながりへの願い。 自然で無理のない出会いへの希望。
これらはすべて、健全で美しい気持ちだと思う。
期待することの意味
専門書店で出会いを期待すること自体に、実は深い意味がある。
まず、そこに足を向けること自体が、知的好奇心を大切にしている証拠。本を読み、学び続けている自分を誇りに思っていい。
そして、偶然の出会いを信じていること。これは人生に対する前向きさの表れ。世の中にはまだ知らない素敵な人がいて、思いがけないところで出会えるかもしれないという希望を持っている。
最後に、自然な形での出会いを求めていること。無理に自分を作ったり、戦略的に動いたりするよりも、ありのままの自分で受け入れてもらえる関係を望んでいる。
実際の出会いはもっと地味
でも正直に言うと、実際の出会いはもっと地味なものかもしれない。
同じ本に興味を示した二人が、レジで偶然並んで、何気ない会話から始まる関係。 書店のカフェコーナーで、隣の席の人が読んでいる本が気になって声をかけてみる勇気。 店員さんにおすすめを聞いているときに、近くにいた人が「その本いいですよ」と教えてくれる親切。
映画のような劇的さはないかもしれないけれど、こういう小さなきっかけから生まれる関係の方が、案外長続きするのかもしれない。
期待しすぎずに、でも希望は持って
大切なのは、期待しすぎないこと。
「今日こそ素敵な出会いが」と強く期待していると、それが叶わなかったときの落ち込みが大きくなってしまう。それに、期待が強すぎると、自然な雰囲気が作れなくなってしまうことも。
でも、希望を完全に捨てる必要もない。
「もしかしたら」という小さな期待を胸に、書店での時間を楽しむ。本そのものを楽しみ、その空間にいることを楽しみ、そして小さな可能性も楽しむ。
本当に大切なのは本への愛
専門書店で出会いを期待するあなたは、きっと本が好きなのだと思う。
その気持ちを大切にしてほしい。出会いがなくても、新しい知識に触れられる喜び、著者の思考に寄り添える楽しさ、静かな空間で集中できる贅沢な時間。
そういう純粋な気持ちで本と向き合っているあなたの姿は、きっと素敵に見える。そんな自然な魅力こそが、本当の意味での出会いを引き寄せるのかもしれない。
出会いは準備しているときに来る
私の経験から言うと、出会いって準備しているときに限って来ない。でも、自分を高めている最中に、ふと訪れることが多い。
専門書店で本を選んでいるときのあなたは、きっと知的な輝きを放っている。真剣に学んでいるときの表情は、作った笑顔よりもずっと魅力的。
だから、出会いを期待するのを「甘い」と自分を責める必要はない。その期待も含めて、あなたらしさの一部。
今日もまた、本屋さんへ
今日もまた専門書店に足を向けよう。
もしかしたら今日は、素敵な出会いがあるかもしれない。でも、たとえなくても、新しい一冊との出会いは確実にある。
そして、本を愛する自分、学び続ける自分、希望を捨てない自分を、大切にしていこう。
専門書店での偶然の出会いを期待すること。それは決して甘くない。それは、より良い人生への静かな希望なのだから。
本の世界で培った豊かな内面は、きっと誰かの心に響く日が来る。その日を信じて、今日も本を手に取ってみよう。