書店の恋愛小説コーナーを歩いていると、色とりどりの表紙が目に飛び込んでくる。「胸キュン必至」「涙が止まらない」「最高にときめく」といった帯の言葉。
でも、手に取って読んでみると、いつも同じ感覚に陥る。
主人公の気持ちが、全く理解できない。
「なんでそうなるの?」という違和感
恋愛小説の主人公は、しばしば理解しがたい行動を取る。
運命的な出会いに心を奪われ、相手のことを何も知らないのに「この人だ」と確信する。少し優しくされただけで舞い上がり、少し冷たくされただけで絶望する。相手のために自分を変えようとし、時には大切な友達や仕事を犠牲にする。
読みながら、つい「なんでそうなるの?」と思ってしまう。
私が冷たいのだろうか。ロマンチックな心が足りないのだろうか。それとも、現実的すぎるのだろうか。
恋に落ちる描写への疑問
特に理解できないのが、「恋に落ちる」瞬間の描写。
駅のホームで偶然ぶつかった瞬間に、時が止まる。 カフェで隣の席にいた人の横顔に、心を奪われる。 雨の中で傘を差し出されて、運命を感じる。
でも現実の私は、そんな瞬間に出会ったことがない。
人を好きになるときは、もっとゆっくりで、もっと地味。何度か話しているうちに「この人といると楽しいな」と思ったり、困ったときに助けてもらって「優しい人だな」と感じたり。
一目惚れのドラマチックさよりも、じわじわとした親しみやすさの方が、私にとっては自然に感じられる。
恋愛が最優先になる世界
恋愛小説の世界では、恋愛がすべての中心にある。
主人公は恋のために仕事を疎かにし、友達との約束をキャンセルし、家族との時間を削る。そして、それが美しい自己犠牲として描かれることが多い。
でも私には、その価値観が理解できない。
確かに恋愛は大切。でも人生には他にも大切なことがたくさんある。仕事での達成感、友達との何気ない時間、一人で過ごす静かな夜、新しい知識を得る喜び。
なぜ恋愛だけが特別扱いされるのだろう。
理想化された恋愛像
恋愛小説の恋愛は、あまりにも理想化されている。
相手は常に完璧で、ちょっとした誤解はすぐに解決し、最終的には必ずハッピーエンドが待っている。現実的な問題—金銭感覚の違い、価値観の相違、家族の問題—はあまり描かれない。
私が大学でコミュニケーション学を学んでいたとき、実際の人間関係がどれほど複雑で、時間がかかるものかを学んだ。お互いを理解し合うには、多くの対話と妥協が必要。理想的な関係なんて、そう簡単には築けない。
現実とのギャップが大きすぎて、物語の世界に入り込めない。
感情表現の大げささ
恋愛小説の感情表現は、とても大げさに感じられる。
「心臓がバクバクして、息ができない」 「世界がバラ色に見える」 「彼なしでは生きていけない」
でも実際の恋愛で、そこまで劇的な感情を経験したことがない。
好きな人といると確かに嬉しいし、楽しい。でも、それは静かな幸福感であって、小説に描かれるような激しい感情ではない。
私の感じ方が薄いのだろうか。それとも、小説の表現が現実離れしているのだろうか。
受け身すぎる主人公
多くの恋愛小説の主人公は、とても受け身だ。
相手からのアプローチを待ち、相手の気持ちを推測し、相手に合わせて自分を変えようとする。自分の意志や欲求よりも、相手の反応を優先する。
でも、健全な関係は対等であるべきだと思う。お互いが自分らしさを保ちながら、歩み寄るもの。
主人公の受け身な態度を見ていると、「もっと自分の気持ちを大切にしたら?」と思ってしまう。
私は冷めているのか
こんなふうに感じる自分に、時々不安になる。
友達が恋愛小説を読んで涙を流しているとき、私は冷めた目で見ている自分がいる。みんなが「素敵な恋愛」について語っているとき、どこか距離を感じている自分がいる。
私はロマンチックな心が足りないのだろうか。恋愛に対して期待しすぎていないのだろうか。それとも、恐れすぎているのだろうか。
別の形の愛を求めている
でも最近、気づいたことがある。
私が感情移入できないのは、恋愛小説に描かれる愛の形が、私の求める愛と違うからかもしれない。
私が欲しいのは、お互いを理解し合い、支え合い、一緒に成長していけるような関係。ドラマチックな瞬間よりも、日常の小さな幸せを共有できる関係。
激しい恋ではなく、穏やかで深い愛。
そういう関係を描いた小説は、恋愛小説コーナーには少ないのかもしれない。
あなたらしい恋愛でいい
恋愛小説の主人公に感情移入できなくても、それはあなたがおかしいわけではない。
人それぞれ、愛の形は違う。感じ方も、表現の仕方も、求めるものも。
小説の世界の恋愛が理想的に思えなくても、現実の人間関係を大切にしていけばいい。ドラマチックでなくても、あなたらしい形の愛を育てていけばいい。
自分の感性を信じよう
恋愛小説に描かれる恋愛が「普通」なのではない。それは数ある恋愛の形の一つに過ぎない。
あなたの感じ方、あなたの価値観、あなたの恋愛観は、すべて正しい。無理に小説の世界に合わせる必要はない。
きっと、あなたの求める愛の形を理解し、共有してくれる人がいる。
今日も、あなたらしい感性を大切に、自分の心に正直に過ごしていこう。