好きな人ができると、時々怖くなる感情がある。
その人の全てを知りたくなる。その人の時間を全部自分のものにしたくなる。その人が他の誰かと親しくしているのを見ると、胸の奥が締め付けられる。
「この人を、私だけのものにしたい」
そんな衝動が湧き上がってきて、自分でも驚いてしまう。こんな気持ちを抱く自分は、おかしいのだろうか。
所有したい気持ちは自然なもの
まず、安心してほしい。恋愛で相手を所有したくなる気持ちは、決して異常なことではない。
愛情の裏側には、必ずと言っていいほど所有欲が存在する。それは人間の本能的な感情の一つ。大切なものを失いたくない、自分だけのものにしたいと思うのは、ごく自然な反応。
私も大学時代、初めて本気で人を好きになったとき、この感情に戸惑った。コミュニケーション学を学んでいたから、理論的には「健全な関係とは何か」を知っていた。でも感情は理論通りにはいかない。
相手が他の人と楽しそうに話しているだけで、胸がざわついた。相手の過去の恋愛話を聞くのが辛かった。こんな自分が嫌で、でも止められなくて。
所有欲の裏にある本当の気持ち
でも、所有したいという気持ちの奥には、もっと深い感情が隠れている。
それは「愛されたい」という切実な願い。「大切にされたい」という心からの欲求。そして何より「捨てられるのが怖い」という不安。
相手を所有したいのではなく、本当は自分が愛され続けたいだけ。相手を束縛したいのではなく、本当は自分が安心したいだけ。
この違いに気づくことが、とても大切。
不安から生まれる所有欲
所有欲が強くなるとき、その背景には必ず不安がある。
「この人は私よりも魅力的な人と出会ったら、私を捨ててしまうのではないか」 「私なんかでは、この人を引き留めておけないのではないか」 「この人にとって、私は本当に特別な存在なのだろうか」
そんな不安が、相手を手放したくないという気持ちを強くする。
でも実は、この不安は相手の行動よりも、自分自身の自己価値感から生まれることが多い。自分に自信がないから、相手を失うことを過度に恐れてしまう。
所有と愛の違い
所有と愛は、似ているようで全く違うもの。
所有は、相手を自分の思い通りにコントロールしたいという欲求。相手の自由や個性を制限してでも、自分の不安を解消したいという気持ち。
一方で愛は、相手の幸せを心から願うこと。たとえそれが自分にとって不都合であっても、相手の成長や自由を支えたいという気持ち。
この違いを理解することが、健全な恋愛関係を築く第一歩。
相手も一人の人間
当たり前のことだけれど、好きな人も一人の独立した人間。
その人には、あなたが知らない友人関係がある。あなたが知らない趣味や興味がある。あなたが入り込めない、その人だけの時間と空間がある。
それは決して、あなたが愛されていない証拠ではない。ただ、その人が一人の完全な人間として存在している証拠。
私たちは恋愛をすると、つい相手を「自分の恋人」という役割でしか見なくなりがち。でも相手は、恋人である前に一人の人間。その当たり前の事実を忘れないことが大切。
健全な愛情の育て方
では、所有欲ではなく、健全な愛情を育てるにはどうしたらいいのだろう。
まず、自分自身を大切にすること。自分に自信を持ち、自分の価値を認めること。相手に依存するのではなく、自分の足で立てるようになること。
次に、相手の個性や自由を尊重すること。相手が自分以外の人と過ごす時間も、相手にとって大切な時間として認めること。
そして、信頼関係を築くこと。相手を疑うのではなく、相手の言葉や行動を信じること。不安になったときは、一人で悩まず、正直に気持ちを伝えること。
所有欲との上手な付き合い方
完全に所有欲をなくすことは、現実的ではない。大切なのは、その感情と上手に付き合うこと。
所有したいという気持ちが湧いてきたら、まず一呼吸。「今、私は不安になっているな」「相手をコントロールしたくなっているな」と、自分の感情を客観視してみる。
そして、その不安の正体を探ってみる。本当に恐れているのは何なのか。相手に求めているのは何なのか。
多くの場合、所有欲の奥には「愛されたい」という純粋な気持ちがある。それを素直に相手に伝えてみよう。「寂しい」「不安」「もっと愛されたい」と。
相手の立場に立ってみる
自分が所有されたらどう感じるかを考えてみることも大切。
束縛される。自由を奪われる。一人の人間として見てもらえない。そんな関係の中で、本当に相手を愛し続けることができるだろうか。
相手も同じ気持ちを抱くはず。所有されることで愛情を感じる人は、ほとんどいない。
愛は手放すことから始まる
矛盾しているようだけれど、真の愛は手放すことから始まる。
相手を所有しようとするのではなく、相手の自由を尊重する。相手をコントロールしようとするのではなく、相手の選択を信頼する。
そうやって相手を「手放す」ことで、逆に相手は安心してあなたのそばにいることができる。束縛されない関係だからこそ、相手は自分の意志であなたを選び続けることができる。
今の気持ちを受け入れよう
所有したいという気持ちを持つ自分を責める必要はない。
その感情は、あなたが相手を心から愛している証拠。大切に思っているからこそ、失いたくないと思う。それは決して悪いことではない。
大切なのは、その感情に振り回されるのではなく、上手にコントロールすること。相手への愛情を、所有欲ではなく、尊重と信頼に変えていくこと。
時間はかかるかもしれない。完璧にできなくても大丈夫。少しずつ、あなたのペースで、健全な愛情を育てていけばいい。
あなたの愛情は、きっと相手にも伝わる。そして、お互いを尊重し合える、素敵な関係を築いていけるはず。