また今夜も、ベッドの中で考えてしまう。
職場の彼がふと見せた笑顔が頭から離れない。優しい声音も、仕事に集中している横顔も。でも同時に、胸の奥に冷たい恐怖がじわりと広がっていく。
この気持ちに名前をつけるのが怖い。
「好き」という感情を認めてしまったら、もう後戻りできないような気がして。
恋愛感情は危険なもの?
いつからか、恋愛感情を「危険なもの」として認識するようになってしまった。
理由はたくさんある。過去に深く傷ついた経験。身近な人の恋愛の破綻を見てきたこと。そして何より、自分の心がコントロールできなくなることへの不安。
恋愛感情は、私たちの理性的な判断を曇らせる。相手のことばかり考えて、自分のことがおろそかになる。期待と不安で一喜一憂して、感情の起伏が激しくなる。
そんな自分になることが、とても怖い。
私も大学時代、コミュニケーション学を学びながら気づいたことがある。人間の感情は、時として論理的思考を上回る力を持つ。恋愛感情は特に、その影響が強い。
だからこそ、無意識に避けてしまうのかもしれない。
脆弱性への恐れ
恋愛感情を持つということは、自分の脆弱性をさらけ出すこと。
相手に対して心を開き、傷つけられる可能性を受け入れること。「私はあなたを必要としています」「私はあなたなしでは完全ではありません」と告白すること。
それはとても勇気のいることだ。
特に、これまで一人で頑張ってきた人にとって。自分の力で問題を解決し、誰にも依存せずに生きてきた人にとって。
恋愛感情を持つことは、その自立した自分を手放すことのように感じられる。
拒絶への恐怖
でも一番怖いのは、やはり拒絶されることかもしれない。
好きになった相手に、その気持ちを受け入れてもらえなかったら。自分の大切な感情が、相手にとっては迷惑でしかなかったら。
考えただけで胸が苦しくなる。
だったら最初から、その感情を持たない方がいい。そう思ってしまうのも自然なこと。
でも、感情は意志でコントロールできるものではない。気づいたら、もうその人のことを考えている。そして気づくたびに、自分の心に蓋をしようとしてしまう。
変化への恐怖
恋愛感情を持つことで、今の自分が変わってしまうことも怖い。
今の生活リズム。今の価値観。今の人間関係。すべてが変わってしまうかもしれない。
そして、もし関係が終わったとき、元の自分に戻れるのだろうか。恋愛を経験する前の、無傷な自分に。
実際には、戻る必要なんてない。経験を通して成長した自分でいいのに、なぜか「元の自分を失う」ような感覚になってしまう。
完璧な自分でいたい気持ち
恋愛感情を持つ自分は、完璧ではない。
思考がまとまらず、時には非論理的になり、相手に依存してしまう。そんな自分を受け入れることができない。
でも考えてみてほしい。完璧でない自分こそが、本当の自分なのではないだろうか。
感情を持つこと、誰かを想うこと、時には混乱すること。それらすべてが人間らしさ。その不完全さを恥じる必要はない。
恐怖心と向き合う方法
恋愛感情への恐怖心を完全になくす必要はない。
その恐怖心も、あなたの大切な感情の一部。それは、あなたが過去に学んだ「自分を守る方法」でもある。
ただ、その恐怖心に支配される必要もない。
小さな一歩から始めてみよう。相手のことを「好き」と心の中で認めることから。その感情を否定せず、でも行動に移す必要もなく、ただ受け入れることから。
感情を持つことそのものは、誰にも迷惑をかけない。あなたの心の中だけの、あなただけの大切な宝物。
恋愛感情の美しさ
恋愛感情は確かにリスクを伴う。でも同時に、人生を豊かにしてくれるもの。
世界が少し明るく見えたり、些細なことに幸せを感じられたり、相手の幸せを自分のことのように願えたり。
その美しい感情を、恐怖のせいで完全に諦めてしまうのは、とても勿体ない。
あなたは強い
恋愛感情を持つことを恐れているあなたは、実はとても強い人。
なぜなら、傷つくリスクを理解しているから。自分の感情の力を知っているから。そして、大切なものを失うことの痛みを知っているから。
その強さがあるからこそ、きっと恋愛感情とも上手に付き合っていける。
今日から少しずつ
今すぐ恋愛に飛び込む必要はない。でも、恋愛感情そのものを敵視する必要もない。
まずは、その気持ちが湧いてきたとき、「ダメ」と否定する代わりに、「そうか、私は誰かを大切に思うことができるんだ」と受け止めてみよう。
それだけで十分。それだけで、あなたの心は少し軽くなる。
恋愛感情は恐ろしいものではない。それは、あなたの心が生きている証拠。あなたが人を愛する力を持っている証拠。
その美しい力を、恐怖のせいで封印してしまわないで。
あなたには、愛する権利も、愛される権利もある。そのことを、忘れないでほしい。