鏡を見ながら試してみる。口角を上げて、笑顔を作ってみる。
でも、どこかぎこちない。作り物の笑顔みたいで、自分でも違和感を覚える。
いつからだろう、心から笑うことがなくなったのは。
バラエティ番組を見ても、友達の冗談を聞いても、なんとなく反応はするけれど、本当の意味で「おかしい」と思えない。笑い声は出るけれど、それは社交辞令のような、義務的な笑いでしかない。
笑顔が重たくなった
昔はもっと軽やかに笑えていた気がする。
些細なことで爆笑したり、友達と他愛もない話でケラケラ笑ったり。写真を見返すと、確かにその頃の私は自然に笑っている。
でも今は、笑顔を作ることすら疲れる。
仕事中、「もう少し明るく」と言われることがある。お客様に対して、もっと感じよく接するように、と。分かっている。でも、その「明るさ」がどこからも湧いてこない。
私は大学でコミュニケーション学を学んだ。表情の作り方、相手に好印象を与える笑顔の角度、そんなことまで理論として知っている。でも知識があるからといって、感情がついてくるわけではない。
むしろ、「こうすべき」ということを知りすぎているせいで、自然な笑顔がどんなものだったか分からなくなってしまった。
感情が薄くなっていく怖さ
笑えないだけではない。
悲しみも、怒りも、喜びも、すべてがぼんやりとしている。まるで分厚いガラス越しに世界を見ているような感覚。
映画を見ても感動しない。友達が嬉しいことを報告してくれても、心の底から一緒に喜べない。自分でも「冷たい人間になってしまった」と思うことがある。
でも、それは冷たいのではなく、疲れているのだということに、だんだん気づいてきた。
心が疲れすぎて、感情を動かすエネルギーが残っていない。笑うことすら、体力を使う行為になってしまった。
完璧な笑顔への強迫観念
社会は私たちに「笑顔」を求める。
「笑顔が素敵な人」「いつも明るい人」「ポジティブな人」。そんな人こそが愛されるのだと、どこかで刷り込まれてしまった。
だから笑えない自分は、魅力のない人間なのではないかと思ってしまう。人から嫌われるのではないかと不安になる。
でも考えてみて欲しい。いつも完璧に笑っている人なんて、本当に存在するのだろうか。みんな、何かしらの悩みや辛さを抱えながら生きている。
無理に笑顔を作り続けることで、かえって自分を追い詰めているのかもしれない。
小さな「楽しい」を見つけ直す
笑い方を忘れてしまったと感じる時、まずは小さな「楽しい」を見つけることから始めてみよう。
爆笑する必要はない。ちょっとした「いいな」「心地いいな」という感覚で十分。
温かいコーヒーの湯気を見ている時。 好きな音楽が偶然流れてきた時。 猫が日向ぼっこしているのを見かけた時。 本屋で面白そうな本を見つけた時。
そんな瞬間に、ほんの少しでも心が動くなら、それはまだ感情が生きている証拠。
私も一時期、本当に何にも心が動かない時期があった。でも散歩中に見つけた小さな花に、なぜかほっとしたことがあった。それがきっかけで、少しずつ感情が戻ってきた。
無理に笑わなくてもいい
「笑顔でいなければ」というプレッシャーから、一度離れてみよう。
笑えない日があってもいい。重たい気持ちの日があってもいい。それもあなたの自然な感情の一部。
無理に明るく振る舞う必要はない。「今日は笑えない日」として、その状態を受け入れてみよう。
周りの人も、きっと理解してくれる。もし理解してくれない人がいても、それはその人の問題であって、あなたの問題ではない。
誰かと一緒にいる時間
一人でいると、どんどん感情が内向きになっていく。
でも誰かと一緒にいると、相手の感情に少しずつ影響を受けることがある。相手が楽しそうにしていると、自分も少しその雰囲気をもらえる。
無理に明るく振る舞う必要はない。ただそばにいるだけでいい。相手の話を聞いているだけでいい。
私も友達とカフェで過ごした時、彼女がケーキを美味しそうに食べているのを見て、久しぶりに「美味しそう」と思えた。小さなことだけれど、それがとても嬉しかった。
体を動かすことの効果
感情と体は深くつながっている。
体が重いと、心も重くなる。逆に体を軽やかに動かすと、心も少し軽くなることがある。
激しい運動をする必要はない。ゆっくり歩いたり、軽くストレッチをしたり、好きな音楽に合わせて体を揺らしたり。
体が動くと、血流が良くなって、脳にも新鮮な酸素が送られる。それだけで、少し気分が変わることがある。
時間が解決してくれること
笑い方を忘れてしまったような状態は、永続的なものではない。
時間をかけて、少しずつ心が回復していく。無理に急ごうとしなくてもいい。
今はまだ笑えなくても、いつかまた心から笑える日が来る。その日まで、自分を責めずに、優しく見守ってあげよう。
あなたの笑顔を待っている人がいる
今は笑えなくても、あなたの笑顔を待っている人がいる。
それは家族かもしれないし、友達かもしれないし、まだ出会っていない誰かかもしれない。
あなたが元気になって、また自然に笑えるようになることを、心から願っている人がいる。
だから焦らなくていい。自分のペースで、少しずつでいいから、心を休めて、回復させてあげよう。
今日という日を大切に
笑えない今日も、あなたの大切な人生の一部。
この時期があったからこそ、いつか戻ってくる笑顔がより貴重に感じられるかもしれない。人の痛みをより深く理解できるようになるかもしれない。
今は休憩の時間。心のエネルギーを蓄える時間。
笑い方を忘れたのではなく、一時的に心が疲れているだけ。きっとまた、あなたらしい笑顔に出会える日が来る。
その日まで、自分を大切にしてあげよう。