引きこもっていた2年間で、恋愛本を40冊以上読んだ。
心理学の本から実践的なテクニック本まで、Amazon で評価の高いものは片っ端から。レビューを読み込み、中古本を買い漁り、ときには電子書籍で夜中に読み続けた。
実際に恋愛をしていないのに恋愛本を読むなんて、と思われるかもしれない。でも今振り返ると、あの時期の読書体験は思っていた以上に大きな意味があった。
なぜ恋愛本を読み始めたのか
引きこもりが始まったのは、大学を卒業した後の就職活動に失敗したから。人との関わりに疲れて、気がつけば家から出ることすら億劫になっていた。
でも、心のどこかでは「いつかは誰かと出会いたい」「恋愛したい」という気持ちがあった。現実逃避だったのかもしれない。でも、その気持ちは嘘じゃなかった。
最初に手に取ったのは『なぜあの人は人を惹きつけるのか』という心理学寄りの本だった。恋愛テクニックというよりは、人間関係の本質について書かれていて、引きこもりの私にも読みやすかった。
理論武装という安心感
恋愛本を読んでいると、妙な安心感があった。
「こういう時はこう言えばいい」「この心理を理解すれば大丈夫」「このステップを踏めば関係は発展する」
実際の恋愛経験はゼロに近い私でも、理論的には「恋愛について詳しい人」になれた気がした。大学でコミュニケーション学を学んだ経験も相まって、恋愛を「学問」として捉えることで、漠然とした不安から逃れられた。
でも今思えば、これは逃避でもあったけれど、同時に必要な準備期間でもあった。
意外に実用的だった部分
実際に人と関わるようになってから気づいたのは、恋愛本で学んだことの一部は本当に役に立つということ。
特に:
- 相手の話をよく聞くことの大切さ
- 共感を示す方法
- 自分の気持ちを適切に伝える方法
- 相手のペースを尊重すること
これらは恋愛だけでなく、あらゆる人間関係で重要なスキル。引きこもり中に理論として学んでいたことが、実際のコミュニケーションでベースになった。
理想が高くなりすぎた弊害
一方で、恋愛本を読みすぎたことの弊害もあった。
本に書かれている「理想的な恋愛」や「完璧なコミュニケーション」を基準にしてしまい、現実の不完全な人間関係に違和感を覚えるようになった。
「この人は私の話をちゃんと聞いてくれない」 「この展開は本に書いてあったパターンと違う」 「もっとロマンチックな出会いがあるはず」
本の知識が、かえって現実の恋愛を難しくしてしまった部分もある。
自分を客観視する力がついた
でも、長期間にわたって恋愛心理学を学んだおかげで、自分の感情や行動パターンを客観視する力がついた。
「今、私は不安になっているから相手に依存的になろうとしている」 「この嫉妬は、私の自信のなさから来ている」 「相手のこの行動は、愛情表現のスタイルの違いかもしれない」
こういう風に自分を分析できるようになったのは、確実に恋愛本のおかげ。感情に振り回されすぎることが減った。
恋愛への憧れが整理された
引きこもり中の読書で、自分が恋愛に求めているものが明確になった。
表面的な「モテテクニック」よりも、深いつながりを重視したいこと。 短期的な刺激よりも、長期的な安定を大切にしたいこと。 相手を変えようとするよりも、お互いを受け入れ合える関係を築きたいこと。
実際の経験がないからこそ、純粋に「理想」を追求できた。その理想は、後に実際の恋愛で大きな指針になった。
本だけでは分からないことも多かった
もちろん、本だけでは分からないことも山ほどあった。
実際の人との化学反応。 予想外の展開への対処法。 文字では表現できない微妙な空気感。 相手によって全く異なる反応。
これらは、実際に人と関わってみないと絶対に分からない。本の知識だけで恋愛ができると思っていた自分は、やはり甘かった。
バランスが大切だった
結局のところ、恋愛本は「予習」としては有効だけれど、「実践」なしには意味がない。
でも逆に、全く準備なしに恋愛の世界に飛び込むよりも、ある程度の基礎知識があった方が心の準備ができる。
私の場合、引きこもり期間中の読書があったからこそ、人との関わりを再開するときの不安が少し和らいだ。「最低限のことは知っている」という自信が、小さな一歩を踏み出す勇気につながった。
引きこもり中の自分へのエール
もし今、同じような状況にいる人がこれを読んでいるなら、言いたいことがある。
恋愛本を読んでいる自分を恥じることはない。それは、諦めていない証拠。まだ希望を持っている証拠。
ただし、本だけで満足しないで。いつかは、小さくてもいいから実際の一歩を踏み出してほしい。本の知識は、その時にきっと役に立つから。
今だからこそ分かること
実際に恋愛を経験した今だからこそ分かるのは、引きこもり期間中の読書は決して無駄ではなかったということ。
その時期があったからこそ、自分の価値観が明確になった。理想の関係性について深く考えることができた。そして何より、恋愛への憧れを失わずにいられた。
遠回りだったかもしれないけれど、必要な道のりだった。
もし今、同じような状況にいる人がいるなら、その時間も大切にしてほしい。でも、いつかは本を閉じて、現実の世界に向かう日が来ることも忘れないでほしい。
あなたの恋愛も、きっと始まる。その準備は、もうできている。