書店の恋愛小説コーナーを通り過ぎるとき、なんとも言えない気持ちになる。
以前は大好きだった恋愛小説。本の中の甘いやりとりに胸をときめかせ、主人公に自分を重ねて、幸せな気分に浸っていた。
でも今は違う。
ページをめくるたび、胸が締め付けられる。美しい恋愛に触れれば触れるほど、自分の現実との距離を感じてしまう。
理想の恋愛への憧れと現実
恋愛小説の中の恋愛は、いつも完璧だ。
運命的な出会い、心に響く言葉、ロマンチックなシチュエーション。主人公は必ず愛され、必ず幸せになる。読んでいる間は、そんな世界に浸ることができる。
でも本を閉じた瞬間、現実が戻ってくる。
私の周りには、そんなドラマチックな出会いはない。心を奪われるような言葉をかけられることもない。恋愛小説のような恋愛が、まるで別世界の出来事のように感じてしまう。
私が大学でコミュニケーション学を学んでいたとき、メディアが人の認知に与える影響について研究したことがある。物語の中の「理想」が、現実の「期待値」を上げてしまうことがある。
恋愛小説もきっと同じ。美しい物語に触れすぎて、現実の恋愛に物足りなさを感じてしまうのかもしれない。
主人公になれない自分
恋愛小説の主人公は、たいてい魅力的だ。
もちろん最初は自信がなかったり、恋愛経験が少なかったりする。でも物語が進むにつれて、必ず誰かに愛され、自分の価値を見つけていく。
私も主人公のように変われるだろうか。そんな風に思いながら読み進めていたけれど、気づけば何も変わらない自分がいる。
本の中の恋愛はあっという間に進展するのに、現実の私はいつまでも同じ場所にいる。そのギャップが、だんだん辛くなってきた。
完璧すぎる恋人たち
恋愛小説の男性キャラクターは、理想的すぎる。
優しくて、かっこよくて、時には少し不器用で、でも最後は必ず主人公を大切にしてくれる。現実にもこんな人がいるのだろうか。いたとしても、私のような平凡な人に振り向いてくれるだろうか。
そんなことを考えているうちに、恋愛小説を読むことが、現実への失望を増やしているような気がしてきた。
読むことで深まる孤独感
恋愛小説を読んでいると、自分の孤独がより鮮明になる。
本の中では誰かに愛され、大切にされている主人公。一方で現実の私は、今日も一人でベッドの中で本を読んでいる。
その対比が、時として残酷に感じる。
以前は恋愛小説が現実逃避の手段だった。でも今は、現実の寂しさを強調する道具になってしまった気がする。
でも、完全にやめることもできない
それでも恋愛小説を完全にやめることはできない。
美しい恋愛に対する憧れは、まだ心のどこかにある。いつか自分にもそんな恋愛が訪れるかもしれないという、小さな希望を捨てきれない。
それに、恋愛小説からは恋愛だけでなく、人間の感情の機微や、心の動きについても学ぶことができる。完全に無意味ではない、そう自分に言い聞かせている。
読み方を変えてみる
最近、恋愛小説との付き合い方を少し変えてみた。
主人公に自分を重ねすぎないようにしている。これは物語、フィクション。現実とは別の世界の出来事として、客観的に楽しむようにしている。
また、完璧な恋愛ばかりでなく、もう少しリアルな恋愛を描いた作品も読むようになった。失恋の話や、うまくいかない恋愛の話も。そうすることで、恋愛の多様性を理解できるようになった。
現実の美しさにも目を向ける
恋愛小説の美しさは確かに魅力的。でも現実にも、本とは違う種類の美しさがある。
不完全だけれど温かい日常。完璧ではないけれど心地よい人間関係。ドラマチックではないけれど、確かに存在する小さな幸せ。
恋愛小説を読んで現実との違いに落ち込むのではなく、現実の中にある別の種類の豊かさに気づくことも大切なのかもしれない。
恋愛以外の物語にも触れる
恋愛小説だけでなく、違うジャンルの本も読むようになった。
友情の物語、成長の物語、冒険の物語。恋愛が人生のすべてではないことを、改めて思い出させてくれる。
そうすることで、恋愛に対する執着も少し和らいだ気がする。
物語は希望でもある
辛いと感じながらも、恋愛小説を読み続けているのは、それが希望でもあるから。
今の私には縁遠く感じる恋愛も、いつか現実になるかもしれない。完全に同じ形ではないかもしれないけれど、私なりの幸せな恋愛が待っているかもしれない。
恋愛小説は、その可能性を信じさせてくれる。
自分のペースで向き合う
恋愛小説を読むのが辛いなら、少し距離を置いてもいい。
無理して読み続ける必要はない。自分の心が求めるものを読めばいい。
でも、いつかまた恋愛小説を素直に楽しめる日が来るかもしれない。その時を待ちながら、今は自分のペースで本と向き合っていこう。
本は逃げない。恋愛小説も、あなたが戻りたいと思った時に、いつでもそこにある。
今は辛くても、いつかまた胸をときめかせながら読める日が来ることを、私は信じている。