図書館の心理学コーナーで、恋愛に関する本を何冊も借りていた時期がある。
『恋愛心理学』『愛とは何か』『恋愛の科学』…タイトルだけ見ると、まるで恋愛マニュアルを読み漁っているように見えるかもしれない。でも実際は違った。
私は本当に、恋愛感情というものがよくわからなかった。
みんなが当たり前に感じているもの
周りの友達は、まるで当たり前のように恋愛をしていた。
「あの人、素敵だよね」 「ドキドキする」 「恋してる」
そんな言葉を聞くたび、自分の中で何かが足りないような気がしていた。私にはその「ドキドキ」がよくわからなかった。
映画やドラマで描かれる恋愛シーンを見ても、どこか他人事のように感じてしまう。みんなが感動している場面で、私だけが冷静に分析してしまっている自分がいた。
「これって本当にそんなに特別なことなの?」
そんな疑問を口に出すのは怖くて、ただ黙って周りに合わせていた。
理論で理解しようとした日々
大学でコミュニケーション学を専攻していた私は、恋愛も一つのコミュニケーション現象として捉えようとした。
愛着理論、進化心理学、社会学習理論…あらゆる理論を使って、恋愛感情を解読しようと試みた。
「恋愛感情は脳内化学物質の作用」 「愛は遺伝子の生存戦略」 「ロマンチックラブは近代の発明」
そんな知識ばかりが頭に詰め込まれていく。でも、理論を学べば学ぶほど、実際の感情からは遠ざかっていくような気がした。
夜中に一人で考え込むことも多かった。「私は何かがおかしいのだろうか」「普通の人ならもっと自然に感じるものなのだろうか」
感情を演じていた自分
理解できないなりに、恋愛らしきものを経験したこともある。
相手は優しくて、頭も良くて、客観的に見れば「いい人」だった。周りからも「お似合い」と言われた。だから私も、これが恋愛なのだろうと思い込もうとした。
でも今思えば、私は恋愛感情を演じていただけだった。
相手に合わせて、適切なタイミングで適切な反応を示す。まるで役を演じるように。そうやって作られた関係は、どこか空虚で、長続きしなかった。
相手を傷つけてしまったことも、自分が傷ついたことも、今でも心の重荷になっている。
「普通」への憧れと焦り
友達の恋愛話を聞くたび、羨ましいような、でも理解できないような、複雑な気持ちになった。
「私も早く恋愛したい」
でもその「したい」は、恋愛感情への憧れではなく、「普通の人になりたい」という願望だった。恋愛していない自分は、何か欠けているような気がしていた。
20代前半の頃は特に焦りが強かった。周りが次々とカップルになり、結婚していく中で、取り残されていくような不安を感じていた。
一人でいることへの罪悪感
「恋愛しない人生なんて、つまらないでしょ?」
そんな何気ない言葉に、深く傷ついていた。
一人でいることは、社会的に何か問題があることのように扱われる。特に女性は、恋愛や結婚が人生の重要な要素として期待される。
私は本や映画、音楽に夢中になれる自分が好きだった。一人で過ごす時間も充実していた。でも、それだけでは足りないような気がしていた。
「恋愛感情がわからない私は、人として何かが欠けているのではないか」
そんな自己否定の気持ちが、心の奥底にずっとあった。
多様な愛の形があることを知る
でも、時間をかけてゆっくりと理解していったことがある。
恋愛感情は、必ずしも万人が同じように感じるものではない。感じ方にも、タイミングにも、表れ方にも、人それぞれ大きな違いがある。
私のように、理屈で理解しようとする人もいれば、直感的に感じる人もいる。すぐに恋に落ちる人もいれば、時間をかけて深く愛せるようになる人もいる。
そして何より、恋愛だけが愛の形ではない。友情、家族愛、自己愛、人類愛…愛にはたくさんの種類がある。
自分なりの愛し方を見つける
今の私は、もう恋愛感情を理論で解明しようとは思わない。
もしかしたら私は、一般的に言われる「恋愛感情」を感じにくいタイプなのかもしれない。でも、それで自分を責めることはやめた。
代わりに、自分なりの愛し方を大切にしている。
深い友情を育むこと。 好きな作品に対する情熱を持ち続けること。 自分自身を大切にすること。 困っている人に手を差し伸べること。
これらもすべて、愛の形だと思う。
過去の自分へのメッセージ
あの頃、恋愛感情を理解しようと必死だった自分に伝えたいことがある。
無理に理解しなくても大丈夫。 みんなと同じでなくても大丈夫。 恋愛だけが人生の価値ではない。
あなたはあなたのペースで、あなたなりの愛し方を見つけていけばいい。
そして、もしいつか本当に心から愛せる人に出会えたら、その時は理論なんて必要ない。自然と心が動くから。
今、同じ悩みを抱えているあなたへ
もしあなたも、恋愛感情がよくわからなくて悩んでいるなら、一人じゃない。
無理に理解しようとしなくても、無理に経験しようとしなくても、あなたはあなたのままで十分に価値のある人。
愛の形は一つじゃない。恋愛だけが愛じゃない。
あなたの心が本当に動く瞬間を、焦らずに待っていよう。それがいつ来るかはわからないけれど、きっと来る時は自然と分かるはず。
それまでは、自分自身を愛することから始めよう。それが、すべての愛の出発点だから。