夜中にふと思う。
誰かのために何かをしてあげたい。
手料理を作ってあげたい。疲れて帰ってきた人に温かいお茶を入れてあげたい。風邪をひいた人におかゆを作ってあげたい。悲しんでいる人の話を聞いてあげたい。
でも、その「誰か」がいない。
この気持ちはどこに向ければいいのだろう。
あふれる愛情の行き場
私の中には、たくさんの愛情がある。
家族のために、友達のために、恋人のために。まだ見ぬ大切な人のために。そして時には、道で困っている知らない人のために。
でも、その愛情を受け取ってくれる人が身近にいないと、心の中で愛情が渋滞してしまう。出口のない優しさが、胸の奥で重くなる。
私が大学でコミュニケーション学を学んでいたとき、「愛情言語」という概念を知った。人それぞれ、愛情を表現する方法も、受け取りたい方法も違う。私の愛情言語は、きっと「奉仕」なのだと思う。
何かをしてあげることで愛情を表現したい。でも、それを必要としてくれる人がいなければ、この気持ちは宙に浮いたままになってしまう。
一人暮らしの静寂
一人暮らしの部屋で、いつもより多めに作った料理を前に、ふと寂しくなる。
「今日はカレーを作ったよ」と報告する相手もいない。「おいしいね」と言ってもらえる相手もいない。
コンビニ弁当でも十分なのに、なぜか手の込んだ料理を作ってしまう。誰に食べてもらうわけでもないのに。
きっと、誰かのために何かをする準備をしているのだと思う。いつか現れるかもしれない大切な人のために。
小さな親切から始まる喜び
でも、誰かのために何かをする機会は、意外と身近にある。
電車で席を譲る。重い荷物を持つ人を手伝う。道に迷っている人に声をかける。職場で疲れている同僚にお茶を淹れる。
そんな小さなことでも、誰かの役に立てたとき、心が温かくなる。ありがとうと言われたとき、自分の存在意義を感じられる。
私は人見知りで、自分から積極的に話しかけることは苦手。でも、困っている人を見かけたときは、なぜか自然と声をかけることができる。その人の役に立ちたいという気持ちが、恥ずかしさよりも強くなる。
愛情の空回り
でも時々、この気持ちが空回りしてしまうことがある。
相手が求めていないのに、一方的に何かをしてあげようとしてしまう。相手のペースを無視して、自分の愛情を押し付けてしまう。
それは愛情ではなく、自己満足になってしまう。
真に誰かのためになることは、相手が何を必要としているかを理解すること。そして、求められたときに、求められた分だけ手を差し伸べること。
これは、学んでもなかなか難しい。愛情があるからこそ、ついつい前のめりになってしまう。
受け取ることの大切さ
誰かのために何かをしてあげたいと思うとき、同時に大切なのは、自分も誰かに何かをしてもらうことを受け入れること。
与えることばかり考えていると、人間関係が一方通行になってしまう。相手にも「してあげたい」という気持ちがあるかもしれない。それを受け取ることも、相手への愛情表現の一つ。
私は昔、人に頼ることが苦手だった。自分のことは自分でやりたい。迷惑をかけたくない。そんな気持ちが強すぎて、相手の優しさを受け取れずにいた。
でも、人は誰かの役に立ちたいと思う生き物。私が誰かのために何かをしてあげたいと思うように、きっと誰かも私のために何かをしてくれたいと思っているかもしれない。
自分自身への愛情
誰かのために何かをしてあげたいと思う気持ちは、とても美しい。でも、まず自分自身を大切にすることから始めよう。
自分が満たされていなければ、他人を満たすことはできない。自分を愛せなければ、他人を愛することも難しい。
丁寧に作った料理を、まずは自分が味わって楽しむ。きれいに片付けた部屋で、自分がくつろぐ。自分のために買った花を、自分が見て楽しむ。
そうやって自分に愛情を注ぐことも、誰かのために何かをすることの練習になる。
今日という日に感謝
今日、あなたが誰かのために何かをしてあげられなかったとしても、それは価値がないわけではない。
その優しい気持ちを持っていること自体が、すでに美しい。その愛情を大切に育てていること自体が、素晴らしい。
きっといつか、あなたの愛情を必要としてくれる人が現れる。あなたが作った料理を「おいしい」と言ってくれる人が現れる。あなたの優しさに心から感謝してくれる人が現れる。
その日まで、この気持ちを大切に持ち続けよう。
愛情の器を育てる
今は受け手がいない愛情も、決して無駄ではない。
その愛情は、あなたの心の中で少しずつ深くなり、優しくなり、智恵深くなっている。いつか誰かと出会ったとき、その人をより深く愛せるように準備されている。
誰かのために何かをしてあげたいという気持ちは、あなたの心の豊かさの証拠。その気持ちを恥じることなく、でも焦ることもなく、自分のペースで育てていこう。
あなたの優しさを必要としている人は、必ずどこかにいる。
その人との出会いを信じて、今日も自分らしく、愛情深く歩んでいこう。